スノーボードクロスで日本人初のメダル獲得へ!
桃野選手がスノーボードを始めたきっかけは。
北海道出身なのでスキー場が近くにあり、地元のスノーボードチームに入ったのがきっかけです。もともとスポーツが大好きなので、何の迷いもなく始めていました。
スノーボード4競技の中で、クロスを選んだ理由は。
最初はアルペンをやっていたんです。スノーボード始めたのが小学1年生。大会に出てみないかと声を掛けられて、出てみたらいきなり優勝(笑)! そのときにチームに入らないか!? と誘っていただいたのが地元のアルペンチームでした。でも、小学4年生のときにたまたま行ったスキー場にスノーボードクロスのコースがあって、友達と滑ってみたら楽しくて、小学生の大会に出場してみたらまた優勝しちゃって(笑)。それからはアルペンとクロスを両立していました。
中高生の頃も地元のクラブチームでの活動だったんですか。
高校では途中から部活に入りましたが、中学の頃は、クラブチームでの活動のみで、学校では卓球部に入っていました。
卓球部ですか。
水泳も野球もやっていて、スキーもスノーボードも大会に出ていて。とにかくスポーツが大好きでもっと色々なスポーツをやりたかったんですけど、一番好きなスノーボードをやるためには、チーム競技だと仲間に迷惑をかけると思ったので、個人競技の卓球部に入部したんです。
中高生時代で一番印象に残っていることは。
中学のとき、アルペンの全国大会で優勝したことが一番うれしかったです。卓球も地区大会で優勝しましたけどね(笑)。
そんなにスポーツ万能だったら人気者だったんじゃないですか。
それは今でも! なんて(笑)。でも学生のときってスポーツができると目立ちますよね。
中高生の頃は多感な時期だと思いますが、他に興味を持ったことはありますか。
本当はバスケットボールをやりたかったです。バスケをやっている友達が多かったので。同い年の従兄弟が僕より少し身長が高くて、バスケが上手だったので憧れていました。でもスノーボードの魅力には勝てませんでしたね。
スノーボードラブですね!
そうですね。でも、家の近くのスキー場が1月と2月しか営業をしていなくて、その2か月間しか滑れないんです。
北海道でも?
農家の人たちが冬の時期だけ兼業で営業しているだけなので、農業のない2か月間だけしか滑ることができず、とても貴重だったんです。でも年中滑ることができたら逆にここまで続けていなかったかもしれないです。
貴重な2か月ですね。
シーズン中は毎日10~12時間スキー場にいるなんて当たり前でした。とにかく量を滑れば上達すると思っていたので。
クロスのコースもあったんですか。
日本ではクロスのコースがあるスキー場はめったに無いため、普通のコースを滑ることや、ジャンプを飛ぶことのほうが多く、クロスのコースを滑ることは少ないです。
オフシーズンの練習メニューは。
筋トレです。でも当時はその重要性が分かっていなかったので、夏のオフシーズンはサボりがちでした。それに日本ではトレーニングをしなくても勝てていたので。でも世界に出てみると今の自分のフィジカルでは勝てないことに気づいて、それからはかなりトレーニングをやっています。
ちなみに、いつ頃からクロス一本に絞ったんですか。
高校3年生のときです。所属していたアルペンのチームが無くなってしまったのと、アルペンよりクロスのほうが勝てて楽しかったから。
クロスは接触も多くケガも多いですよね。
そうですね。ジャンプの飛びすぎで転倒し、鎖骨と手の骨を骨折したこともありました。選手同士の接触よりも、ジャンプの着地で転んだり、頭を打つこともあるので脳震盪になることが多いです。
怖いですね。
はい。ワールドカップのコースは時速80km位のスピードで、さらに雪面は氷のように固く、ジャンプも25mぐらい。それを4人で滑るので、さすがに怖くなりますね。
その怖いという気持ちをどう乗り越えていますか。
大会になるとアドレナリンが出ますからね。怖いという気持ちと、勝つぞ! という気持ちも強くなるので。でも、ビビることが大切だと思っています。怖いもの知らずに突っ込んでいく選手のほうがケガも多く、トップの選手はビビっている人のほうが多いです。より慎重に、すごく考えながら滑っています。
ところで、いつ頃からプロを意識していましたか。
実家が農家ということもあって、高校生の時に将来何をしようかと考えて、当時は会社員よりも農家を継ぎたいと思っていました。そう考えてみると、農家って冬時間があるんですよ。それならスノーボードもできるなと。しかも農家になるって決めたら、学生時代にスノーボードに打ち込んでも大丈夫だなと思いました(笑)。たまたま今は仕事になっていますけど、その時は将来プロになるとかは思っていなかったです。
それでスノーボードに打ち込んだんですね。
それまでは進学校に通っていたんですけど、農家になることが決まったら、勉強の必要性を感じなくなり、すぐにスノーボード部のある学校に転校して、それからは部活としてスノーボードを満喫していました。
その後、大学に進学されたんですよね。
奨学金制度で学費が免除になるということもあり、一度は大学に進学したんです。とりあえず大学4年間はスノーボードに専念できるから、オリンピックを目指そう! って。でも結局は大学を中退して、スポンサー企業で仕事をさせていただきました。
では、お仕事をしながらスノーボードを。
はい。でも仕事をしながらオリンピックを目指すのは難しく、そこで働いているときにオリンピック委員会の「アスナビ」という就職支援を知って、スノーボードに打ち込むためにウィンコーポレーションに転職しました。
スノーボードクロスでは、どの程度、賞金が稼げるんですか。
ソチオリンピックの賞金ランキングでは、クロスの女性アメリカ人選手がランクインしていて1億円以上でした。でも日本ではランクインするほど稼げないと思います。
オリンピック出場を必ず決める! 準備の秋!!
この時期は海外で活動しているんですよね。
はい。昨日ニュージーランドから帰国しました。ゴールデンウィーク後から8月まではオフシーズンなのでそれ以外は海外での活動が中心です。だから日本の暑さには慣れないですね。
主な活動の拠点は。
オーストリアにいる期間が長いですね。夏はニュージーランド、秋はオーストリア、あとは世界中を周っています。
普段の練習量はどのくらいですか。
最近は午前中の2~3時間しか練習しないです。午後は陸上トレーニングや筋トレです。世界レベルで勝負するためには、ただ量を滑るのではなく効率よく質の高い練習をしています。
陸上トレーニングというと。
オンシーズンの冬は大会の転戦なので、練習はなく、大会出て、移動して、また大会にでるという感じで、基本的に、オフシーズンの秋にしか練習はしないんです。でも秋は山頂にしか雪が無いので、陸トレでフィジカルを強化しているんです。
クロスのコースは日本にもあるんですか。
長野県の車山高原など、今は人気があるのでけっこうありますね。スノーボードの4競技の中でも、クロスは国内での大会数も賞金も一番多く、出場選手数も多いので、国内で一番盛り上がっている競技だと思います。勇気があれば誰でも出場できますよ(笑)!
誰でもですか!?
ジャンプや回転などは練習をしてもなかなかすぐにはできませんが、クロスはとりあえず滑れれば大丈夫なんで、誰でも!
日本のコースは難しいんですか。
日本は初心者の選手も出られるように簡単になっています。それにゲレンデを滑るよりコースを走るほうがおもしろいですよ。初心者でもできちゃうので、おもしろいと思います。
日本の山と海外の山の違いはありますか。
まず第一に違うのが標高です。海外では、富士山の山頂と同じ位の高さにゲレンデがあるので、日本では滑ることのできない高さで、いつも雲が下にあって、酸素が薄く木もなく、雪質は固いですが、見る景色は別世界で最高です!
日本に帰ってきたときに必ず行うお気に入りの気分転換法はありますか。
月に1度は日本に帰国するんですけど、必ず髪を切りに行きますね。表参道にある美容室に行くんですが、担当のスタイリストさんもスノーボードが好きな人なので、気分転換がてら空港から直行します(笑)。僕にとっては美容室に行くことが日本に帰ってきたときの最優先事項になっています。長時間のフライト後の美容室でのシャンプーが最高なんですよ。暖かいタオルをもらって顔をふいて「あ~帰ってきた~」って。
こだわり感のある気分転換方法ですね!
でも髪型はお任せです。好青年風は意識していますけど(笑)。スノーボーダーってチャラチャラしている人が多くイメージがあまりよくないのでそれは避けたいと思って。しかも一応会社員なので(笑)。
本当はこれをやりたいけれど、禁止しているということはありますか。
モトクロスをやりたいんです。実家のそばにコースがあって、北海道で1位の友人もいるので。でもケガはできないので諦めました。
海外で活躍する選手は年間でどのくらい練習をしているんですか。
以前はフランスのチームと一緒に練習をしていました。フランスは、世界大会で毎回メダルを獲得するクロスの強豪国なんですが、一緒にトレーニングをすると、クロスの練習は2時間程度で、あとは、テニスやビーチバレー、一輪車、スラックラインなど色々な競技をやっていました。
様々な競技をやることが良いということでしょうか。
そうかもしれないですね。いきなりワールドカップに出場して優勝したトレバー・ジェイコブ選手は、本当に色々なことをやっていますね。関係ないかもしれませんが、インスタグラムのフォロワー数もすごいですよ。
桃野選手も今まで様々なスポーツで結果を出しているので、楽しみですね! 海外の選手に勝つために工夫していることはありますか。
現状として、ヨーロッパやアメリカ勢に対して、アジア人が勝てないのは体格差だと思います。身長が180cm以上、体重も80kg以上なければ、ほとんど予選を通過することはできません。トップ10に残る選手は大抵185cm、90kg位の体格がなので、世界で戦うための身体づくりは重視しています。
体重が重いほうがスピードも出るんですよね。
真っすぐに滑るだけだと変わらないんです。重いものと軽いものを一緒に落としたら同じスピードで落ちますよね。でもジャンプって下りからの上りじゃないですか。その上りの勢いで一気に差がでるんです。クロスはジャンプやウェーブで上りが多く、そこで体重が大事になりますね。
レースにおいて、前の選手との差はどうやって詰めるんですか。
車と同じでスリップストリームという現象をうまく使います。後ろの選手は前の選手の背後につき、風の抵抗を減らして一気に加速、ギリギリまで後ろについてからタイミングを見て抜きます。あとは、ジャンプなどで上るときに圧をかけて上ると勢いが出るので、色々な工夫をしていますよ。
世界レベルで戦うためには、トレーニングはかなりガッチリ系ですね。
かなり厳しくやっていますね。今身長が181㎝で、体重が85kgあるんですが、4年前は65㎏しかなかったんです。それでも日本では勝てていたので、そのまま世界に出たらずっと最下位で…。それからは筋トレと食事の量を増やしました。トレーニングも重さだけを意識するのではなく、動きの速さも大切なので、動きが速くなるようなトレーニングをしています。
どのくらいの量を食べていますか。
特にお米の量は重視しています。最初、65㎏でワールドカップ出た後に春から秋にかけて15㎏増やしたときは、肉とお米を中心にかなりの量を食べていたので、もうしばらく肉もお米も見たくもないし、おなかが空いた感覚がわからないレベルでした。
かなり食費がかかりますね。
実家が農家なんで(笑)。肉代だけはかなりかかりましたけど。
北海道というとジンギスカンですよね。
ジンギスカンはヘルシーなので、太れないんですよ(笑)。だから、ジンギスカンではなく、主に鶏肉を食べていました。
ちなみにスノーボードの選手にとって一番大切な筋肉というと。
全体的にバランスよく付けることが必要だと思います。ワールドカップで海外の選手とホテルが同じになり一緒に生活をすると、みんな格闘家のような筋肉がついていますからね。やばい! 鍛えなきゃ!! って思います(笑)。
スノーボードって小柄なイメージでした。
ハーフパイプの選手とも時々会場が一緒になるんですが、飛んだり回ったりするので、体は小さく細く、クロスの選手とはまったく違いますね。食事の時なんか一緒になるとビックリしますよ。同じスノーボードでも、こんなにも違うものかと。
その他海外での活動で頑張ったことはありますか。
英語はかなり頑張って覚えました。高校3年生の時に初めて海外で活動するようになったのですが、高校卒業するときに全く話せないことに気がついたんです。だから、大学のときに英会話教室に2つ通い、海外に行って試していました。最近は結果が出てきて世界でも認めてもらえるようになり友達もできてきたので、話す機会が増えて少しずつ上達してきましたね。
イケメンで英語も話せてスポーツ万能で完璧ですね! 桃野選手の理想の女性のタイプは。
ハーフ顔が好きです。性格はポジティブな人がいいですね。芸能人でいうと、ダレノガレ明美さんですね。あのハーフで元気いっぱいな感じが好きです。
今号のテーマ「今年の秋は○○な秋」ですが、桃野選手はどんな秋にしたいですか。
12月からオリンピックの予選が始まるので、そのためにもオフシーズンである今年の秋が一番大事なんです。冬になり大会がはじまってから頑張っても遅いので、秋にしっかりした練習を積み重ねることでこのシーズンが決まるので、「オリンピック出場を必ず決める! 準備の秋!!」ということで、ばっちり準備をしてシーズンに入れるよう、追い込んでいきたいと思います。
オリンピックに出場してメダルをとれたらその先はどうなると思いますか。
どうなるのか見てみたいですね。想像もできないです。出場したらどうなるのか、メダルをとったらどうなるのかが楽しみです。とにかく子どもの頃から何かのスポーツでオリンピックに出場したいと思っていたので(笑)。
それでは、桃野選手の今後の目標と夢を教えて下さい。
まずは1年半後の平昌オリンピックに出場して、メダルをとることが一番の目標です。そして、世界ランク1位の選手がまだオリンピックでは金メダルが獲得できていなかったり、世界大会で3位になる選手は知名度が低かったりと、クロスはなにが起こるかわからないスポーツなので、自分の力を十分に出して、夢であるメダル獲得を狙っていきます。
最後に部活に励む中高生にメッセージをお願いいたします。
凡人でも、一つの目標に向かって絶対に達成すると思い努力し続ければ、凡人ではなくなる。だからこそ、自分の目標をしっかりと妥協しないで追い続けることが大切だと思います。継続は力なりで頑張ってください!
ありがとうございました。