(通訳/近藤広二さん 取材・文/山下悠毅 写真/小山基彰)
1.ベネズエラという国
ターニングポイント7人目のゲストは、東京ヤクルトスワローズ アレックス・ラミレス選手です。よろしくお願いします。
ヨロシクオネガイシマス!
野球を始めたのは何歳の時でしたか。また、きっかけを教えて下さい。
私が野球を始めたのは9歳のころです。クラブチームに所属するのではなく、ストリートで野球をすることから始まりました。私の出身国ベネズエラでは、貧しさのためクラブチームに所属できず、ストリートで野球をする子供たちがたくさんいるんです。私もそのような子供の一人だったんです。
しかしある時、ストリートでプレーする私の姿が地元クラブチームの監督の目にとまり、クラブチームへスカウトされました。もちろんクラブチームで野球をやってみたいとの思いはありましたが、私にはそれだけのお金がありませんでした。貧しさを理由に誘いを断ると、その監督は「お金はこちらで工面するので、お金の心配はいらないよ!」と言ってくれました。これが、私が組織というものでプレーする初めてのきっかけとなりました。
中高生時代はどうでしたか。
地元クラブチームへの所属の条件として、「しっかり学校へ通う」という事が挙げられていました。今振り返ると、「貧しさから学校へも通えずに、ストリートで野球に明け暮れている子供たちを、どうにか学校へ通わせる」 というのが監督の目的だったように思います。
監督のもくろみどおり、私は野球をやりたい一心で学校に通いましたが、はじめのうちは、「野球が一番! 勉強は二の次」という生活でした。しかし月日がたち、私も徐々に大人の考えをもてるようになり、「勉強をして初めて野球ができる」 というように考えが変わり、次第に学業が優先されるようになりました。
それを教えて下さったのも、その監督だったわけですね。
はい。まさに監督のねらい通りだったのだと思います。 監督は学校へも行かずにストリートで野球をやっている子供たちをどうにか学校へ通わせ、野球を通してスポーツというものを学ばせたかったのだと思います。
2.ピッチャーからバッターへ
はじめてのスタメンはどうでしたか。
スタメンとしてプレーできる、できないということよりも、ユニフォームを着ることができたということに、ただただ感動し興奮しました。
ユニフォームを着た自分がチームの一員となり、みんな一丸となって練習し、お互いがお互いのために頑張るという充実したすがすがしい気持ちだったことをおぼえています。
私がいくらストリートで活躍していたからといって、クラブチームでいったいどれくらい通用するのか全く分らなかったし、自信もありませんでした。 しかし、クラブチームに所属している地元の友達から、クラブチームでプレーする楽しさを聞かされていたので、自分も一緒にプレーしてみたいと思っていました。
いつ頃レギュラーになれたのですか。
今もそうですが、フライ(外野での守備)はそんなに得意ではなく、その代わり肩が強かったので、投げてみてはどうか?ということで最初はピッチャーをしていました。 そのうちピッチャーをやりながらバッティングをやってみたら、バッティングもなかなかよかったんです。 なので、ここという決まった特別なポジションというのはありませんでした。 それがたぶん10歳くらいだったと思います。そして、11歳から15歳まではベネズエラ代表のピッチャーとして、国際試合に出場したのですが、15歳の時に出場した国際試合が、その後プロと契約するきっかけとなりました。試合はというと、残り3試合うち2試合勝てば決勝進出というところで、私たちのチームはみごと最初の2試合を先取し決勝進出を決めいました。 ピッチャーとして3試合目で登板が決まっていた私は、消化試合となる最後の試合で投げる予定でしたが、試合前日に外野選手がケガをしてしまったので、監督から「負けても構わないから、外野を守ってくれないか?」と頼まれ、外野手として出場したんです。 そしてその試合でホームランを2本打ったんです! それが試合を見に来ていたスカウトの目にとまり、外野手としてプロ契約する事になったんです。
外野手として契約したわけですが、先ほども言ったように、私は守備があまり得意ではなく、ボールを落としては蹴飛ばしてばかりいたので、あのドリブルで有名なサッカー選手の名前から、チームメイトには、「ペレ」と呼ばれていました(笑)。
3.優先順位を意識する
部活動の大切さについて、中高生へメッセージをお願いします。
物があふれている現代(日本)では、「勉強やスポーツへの興味・関心をじゃまするような物が多くありすぎる」と思います。その結果、授業中でも部活の最中でも、その他のものに気が取られて、なかなか身が入らないんですね。ですから、「1番目が勉強、2番目にスポーツ、それが終わった3番目に自分の時間」というように、自分の気持ちをきちんと区別して、常に今やるべきことに集中するという事が大事だと思います。
何かの紙に、自分のすべきことの優先順位を書き、それを常に自分の中で思い出せるように、どこかにはったり、持ち歩いたりして、頭や気持ちの中で意識する。 そして今すべきことに集中し、それが終わったら自分へのご褒美として、好きなことを楽しむ。 とてもシンプルだけれど、これが一番いい方法だと思います。
スポーツのいいところは、部活の最中や練習の際、いつも何か新しい課題や発見がみつかり、一日一日が勉強になるということだと思います。 テレビゲームをする時も、ただゲームをするのではなく、集中するというのが大切だと思います。例えば野球のゲームだったら、「この選手にこういうスライダーを投げたらどうなるか?」など、一つの情報源として、実際の野球にいかすというのもいいかもしれません。
4.ターニングポイント
ラミレス選手がプロ野球選手としてやっていこうと思ったきっかけはいつだったんですか。
15歳の時、野球をやっていて壁にぶちあたりました。僕にはその壁を飛び越えられる自信はありましたが、学校に通いながら、その学校のチームで野球を続けるにはお金がかかってしまうので、自分の家の経済状況を考えると、学校と両立して野球を続けていくことがむずかしかったんです。でも時間さえあれば、プロ野球選手になれる自信があったので、お母さんに「学校をやめて野球選手になる」と言いました。その時、お母さんは涙を流して「おまえが決めたのなら私は信じるから」と言って応援してくれたんです。もしその時お母さんが反対して、学校をやめさせてくれなかったら僕はプロ野球選手になっていなかったかもしれません。そこが自分にとってのターニングポイントでした。
お母さんが一番の理解者だったんですね。
そうですね。お母さんが僕に野球を見にいかせてくれたし、野球を続けていくことを応援してくれました。だから、学生として最後の試合は、どうしてもお母さんに見にきて欲しかった。でも、うちは貧乏で試合会場まで見に行ける交通費がなかったんです。そこで、チームの食事係としてスクールバスに乗ることで、試合をみることを実現させました。
お母さんとラミレス選手の思いやりがあたたかいですね。野球をやっていて一番嬉しかったことは何ですか。
一番嬉しかったことは、マイナーからメジャーに上がった瞬間です。お母さんとの約束を守れたし、夢をかなえる事にもなったので、それが一番嬉しかったです。「お母さん、メジャーリーガーになったよ!!!」って電話で二人して泣きながら喜びました。
いい話ですね。(この時、インタビューに関ったスタッフ全員の目頭が熱くなりました)
5.中高生からラミレス選手への質問コーナー
野球をやっている中高生からいくつか質問があります。まず、打つときの打球の角度の質問ですが、ラミレス選手は打つときにどこを意識されていますか。
僕にとってのベストスイングは、グリップしている上の手が、上からかぶさって最短距離でいくことです。また、地面に垂直にスイングする事と、スイングしている時の上半身と下半身のコンビネーションも大事です。バッターボックスでは常にそれをイメージしてスイングしています。そうすれば、ゴロやフライではなく、いい打球を打つことができます。
練習で調子が悪いとき、試合ではどういう気持ちでのぞめばいいでしょうか。
しっかりとしたアイデアを持ってプレーする事が大事です。例えばバッターの場合、ただ来た球を打つのではなく、こういう球がきたらこう打とうとか、しっかりとしたアイデア、プランをあらかじめイメージして、プレーする事が大事です。またそういう時は一球待って、タイミングを計って、センター返しを心がけると良いです。そうすれば、変化球がきてひっかけても、ライトやレフトに飛ぶのでヒットになります。いい選手はスランプの期間が短いです。悪い選手はスランプの期間が長く、アイデアが無く、ただプレーしている事が多いです。そしてスランプに陥ったとき、自分がスランプであることを認めないことが大事です。過去よりこれからを前向きにプレーする事が大事、つまりポジティブシンキングです。
なるほど!! では大切な試合の前日はどのような気持ちでいればいいでしょうか。
例えば、4打数無安打で、打てなかったと落ち込んでも打てるようには解決しません。大事なのは、なんで4の0だったのか。僕は毎試合ビデオを撮って、家に帰ってチェックします。「相手のピッチャーがこういう配球をしてきたから打てなかった」など、自分のスイングのチェックです。その反省をふまえ、次の試合はこうしてプレーしようと、イメージするんです。そうすれば、試合にとてもポジティブにのぞめます。昨日は昨日。今日は今日です。
ただ漠然とではなく、理論づけてプレーをしているんですね。とても勉強になりました。すべて大事だとは思うのですが、野球が上手になる上で一番大事なのはなんですか。
下半身のトレーニングです。日本人のバッターはみんなバランスがよいですが、パワーがありません。下半身を強くすることによって、打球の飛距離ものびるし、肩もつよくなります。よって、走りこみをしっかりとやる事が大事です。
6.ベストをつくせ!!!
ところで、ラミレス選手のお世話になったコーチや監督の言葉で印象に残った言葉とかはありますか。
「何が起こるかわからない。でも何かが起こったとき、それにうまく対応する事が大事だよ」と教わりました。野球でも野球以外でも言えることですが、何かが起こってそれに対応するとき、良くも悪くも対応次第で結果が変わります。ベストをつくすということです。
いつも最後に中高生にメッセージを頂いていますが、「ベストをつくせ!!!」と言うのがラミレス選手から中高生へのメッセージですね。
常に上を向いて歩いていく。確立は50%です。上を向くのと下を向くのでは確立が変わります。上を向いていれば4打数2安打。下を向いていると4打数1安打。だから上を向いてポジティブになることが成功への秘訣です。
最後にラミレス選手の今後の目標を教えてください。
今の目標は、200本安打を達成する事です。将来的な目標は、日本のプロ野球で監督になることです。
今日はホントにありがとうございました。今後の活躍を楽しみに応援しています。